心の雲


某月某日。
呉から宅急便が届いた。
とりあえず、危険物でないことを透視して確認する。木箱を開けると、中には冊子が1冊入っていた。
取り出し、おもむろに開いてみる。
見開き1ページ目には周公瑾の字で”愚痴られよ”と一言書いてあった。その左に、人の名前と矢印が交互に書いてある。
どうやら、この順番に冊子を回していくらしい。
自分の名前を確認する。2番目。上は周公瑾、下は司馬仲達。
何故自分が1番上ではないのか―――
それにしても、バカに輸送費がかかる回し方。
呉→蜀→魏→呉→…
さらに左へと読み流すが、一番最後の行に目がとまる。
『資本提供、魯子敬財団様』
―――あぁ、金持ちの道楽ですね。
まぁ、金はかからないのですから、参加してもよさそうです。暇ですし。
次のページを開く。
同じく周公瑾の字で”愚痴”がつづられていた。
とりあえず、読んでみます。



○月×日
今日、T慈殿から頼まれていた仕事をようやく終え、久しく外の空気にも触れていなかったので、散歩がてら街に出た。
相変わらずこの街は私の善政が行き渡り、活気に溢れている―――何にせよ本当に久しぶりだったものだから少し嬉しくて、るんるん気分で街を歩いていたのだ。
領民は皆私を慕ってくれている―――
しかぁあし、そんなうきうきな私の気分をソコねる出来事が起きた。
私の行きつけの呉服屋からT慈殿が出てきたのだ。それも、わぁたぁしぃのぅS策と一緒にだ。
2人はこの私に気付いた様子もなく仲良くな ら ん で腕を組み歩いていくではないか。
私は気配を押し殺しながら、2人の後をついていくことにした。その時は怒り狂いそうになっていたから思考回路がほぼストップしていたが、今こうしてよくよく考えると、T慈殿にしてやられた、ということになるな……
うぬぬ、許せん、ウキィ―――――――!!!
T慈は私を出し抜いたつもりでいたのだろうか、S策とベタベタイチャイチャと巷ではびこっている高校生カップルのようにくっつきおって!!
さらにぃ!ベンチに腰掛けたかと思ったら屋台のたこやき二人でつっつきおって。
『S策、あついぞ、ふーふー、はい、あーんv』
”ふーふーはいあーん”って、ごるぁ、なめとんのかいわれぇ。
たこやきふーふーの権利は大都督である私だけにあるのだぞ!!
ぐーぐやじぃ―――
絶対にあの二人の仲裂きたいんで、諸葛亮殿、呪いグッズ送って下さい(すでにT慈の抜け毛と爪は入手済みなので安心してください)
     [周瑜]



…どうやら、人名は伏せ字を用いるようですね。
名簿を見る。やはり太史慈と孫策の名前はない。
美周郎台なし―――
そんなに自分さらけ出していいものなのでしょうか……とりあえず今日は流して様子を見ましょう。




諸葛亮から小包みだと?
そんなもんほっとけ。
はぁ?今すぐ開けろ?
ふっ、仕方あるまい。奴から送られてくるものにはロクなものがないがな。今回は輸送費の請求がきてないから少しはマシなものなのだろう。
ほぅ……どれどれ。冊子?愚痴れ?
奴も暇人なんだな……ん?字が奴のものではないな。周公瑾?誰だ?
あぁ、奴のことを妙に気にしている美周郎とかいう奴だな。
あいつがかぶるな。まぁいい。
ここではっきりさせておこう。
周瑜は奴の足元にも及ばん。奴とてこの私よりは下だがな。ふははははは……
ふぅ…次は陸遜か。―――天才現役高校生軍師とかいってたな。所詮自称に決まっていよう。
周瑜の愚痴は軽く読み飛ばして……奴の愚痴か、どーせつまらんことでも書いてあるんだろう。



〇月□日
昨日、成都で『麻雀対決!漢中王争奪杯』がありまして、私もそれに参加させていただきました。
どうも最近ちょーしが悪くて勝てずにいたんですが、今回Dr.〇パの風水、なるものも導入いたしまして、順調に決勝まで残っていました。
ところがです。決勝でH統に負けてしまいまして、R備殿をとられてしまいました。
きっと何かあったに違いないと思ったので、すぐに自室き戻りました所、K維が真っ青な顔でそこにいたんです。私の風水グッズは無残にも破壊されていました。独自に開発した運上昇増幅機まで……実験に使った資金は計り知れません―――
とりあえず、犯人はK維だったようなのでお仕置きしておきました。
それにしてもショックです。
追伸:そういうことでしたらよろこんでお送りしますよ。送料込みでしめて67万元いただきます。ってここに書いても見るの当分後ですね。周瑜殿、まいどありがとうございます―――
     [諸葛亮]



……蜀がビンボーなのって全部奴のせいなのでは―――
姜維には今度何か送っておこう。せいぜい奴の足を引っ張る程度にしかならんだろうが、何もないよりはマシだろうからな。
さてと、私も何か書いてやるか。
え?自慢じゃなくて愚痴を書け?




魏から速達?
この受験勉強で忙しい時期にですか?
クソったれですねぇ、放火しますよ―――
はぁ……
明日から期末テストなのに……とりあえず、愚痴ればいいんですか?まったく……周瑜殿も人が悪いですね。こんなの、周瑜殿の自己満足じゃないですか。
……周瑜殿、諸葛亮先生、司馬懿……私の次は趙雲殿で……と。
息抜きがてらにでも、読んでみますか。
周瑜殿ってこんな人でしたっけ。ちょっと意外です。
諸葛亮先生……そんなに苦労してるなら私に言ってくれればいいのに……
後で硫黄、硝石、ベンゼンなんか送っておきましょうv
司馬懿ってあんま印象ないんですよね……まぁ、もっとも私が興味ある人っていったら、興覇と諸葛亮先生くらいだけど。



〇月△日
そんなに書くことはない、と思って筆をとったが、予想していたより出てくるものだな。
Tコウ将軍が来たぞ。あれに絡まれるとさしもの私も逃げ切れん。奴……諸葛亮が少しマトモに思えるくらいにTコウ将軍は恐ろしい。生気を吸い取られるようだ。
その後、何をされるかと思ったら、S操殿の私邸に連れていかれた。麻雀卓が2つあった。
1つにはS操殿、K惇殿、K淵殿、S姫殿。もう1つにはT遼将軍とJ晃将軍が座っていて、席が2つ空いていた。ヤな予感がした。
Tコウ将軍には悲しいことに逆らえん。
おとなしく卓についた。続いてTコウ将軍も座る。
「Let's脱衣麻雀〜!」
S操殿の一声で始まってしまったぞ。
ふっ、ぶぁあかめがぁあ!!
このようなショボイ策にはまるような司馬懿様ではないわぁ!!
哀れ、私の卓ではJ晃将軍が素っ裸、T遼将軍も下着一枚というありサマだったぞ。もちろん、この私が一枚も脱ぐわけない。
Tコウ将軍?あれはもともとほとんど服なぞ着ておらんではないか。脱ぐもんもなし、脱いでもなしだ。
S操殿の卓ではS姫殿が一人勝ちしていたな。K淵殿の裸体ははっきり言って
キショ
かったぞ。あれも見れるようなもんではないな。
流石にこれ以上はやめたほうがいいな。自粛するぞ。
追伸:後半はほとんど愚痴になってなかったな。まぁ許せ。諸葛亮、いくらでも資本提供してやるからTコウ将軍撃退兵器を作ってよこせ。あの変態露出狂を何とかしろ。
     [司馬懿]



……じゃあ、私は張コウさんに私が太史慈将軍のために開発した『これで一発コローリ君ver.5』を送っておきましょう。クスクスクス
諸葛亮先生を司馬懿にとられるワケにはいきませんし。
はっ!こんなことしてる場合じゃなかった。明日は数Cと古典と化学なのに……
ベンゼンに混酸でニトロベンゼン、スズに塩酸で還元してアニリン……ピクリン酸……強酸で塩化鉄(V)で呈色しない……爆薬に使われる……ふふふ、やっぱり化学は楽しいですねv
サリチル酸メチルはサロンパス、アセチルサリチル酸はアスピリン(以下略)
古典は私の得意分野ですからね、簡単簡単。
あ、私が周瑜殿の鬱の原因作ったコト、内緒ですよ―――




姜維宛てではないのか?
間違いではないらしい。差し出し人は陸遜、受け取り人は自分の名前になっている。その便の中身は冊子と小さな包み。
小包みには短い手紙が添えられていた。
”『これで一発コローリ君ver.5改』をお送りします。肉まんタイプなので相手に抵抗されずに使うことができます。さぁ、これであなたも幸せをGETしましょう!馬超将軍を頑張ってオとしてくださいネv by陸遜”
ぶっ
思わず吹き出す。
「子龍、どうした?」
部屋でくつろいでいた馬超に気付かれる。
「な、なんでもない。ちょっとした用事が出来たから一人にしてくれ」
「おい、子龍……」
無理矢理馬超を追い出して、部屋にはカギをかける。


……終わり!







結局陸遜が日記になんと書いたのかは不明、趙雲の次は誰に回っていたのだろうとか、そういう過去はおぼえていません。
すっごく気になる、続き。





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