ただ一つの贈り物


「…水賊の討伐に行ってくる」
「行ってらっしゃい」
宵を受取り、子義の頬に唇を寄せた。
少しばかり身を引いたが、子義は俺の顔の傷に指を滑らす。
「……五日以内に、帰る」
国内の事で、しかも国を害するほどのものではない。
「そうか」
素っ気無い返事に、いつもの事だと頷くと、兜を被り直して馬に乗る。
精鋭数十人ほど率いて、馬を走らせた。



叫び。
血。
こんなことには、もう慣れた。
軍を進めて二日、陸に上がり、村で略奪している水賊に出会った。
村の自警団が応戦し、警戒体勢だったため、略奪し終えた水賊の船に紛れ込み、奇襲することにした。
考えてみれば馬鹿な話だと、全く手応えのない水賊を薙ぎ倒し、笑った。
元水賊だった己が、討伐するとは。
血で濡れた船内を、まだ低い太陽が照りつける。
早朝、襲撃した。
抵抗したものは傷付けはしたが、治療の行える範囲である。
諦めて投降した者は、隅に固まらせてあった。
「…………お前が、頭か?」
見れば、まだ十代を少し越えたばかりの、女だった。
「はん、見ればわかるでしょ」
「何故……」
「誰も、まとめないからさ」
親父が死んだんだよ、と少女は続けて、投降した仲間に声を張り上げた。
「さ、もうこんな活動は止めにするよ!みんな、ちゃんと故郷で働け!わかったか?!」
ばらばらな返事が聞こえて、少女は俺を仰ぎ見た。
酷く小柄だった少女が、大きく見える。
「さ、あんたは私を斬るのか?」
「斬らん…お前も働けば良い」
「そ」
素っ気無い返事が、誰かと重なった。
「この船にあるのは、好きにしな。私らは違ってね、選りすぐりのモノばかりさ」
珍しいものもあるんだよ、と、少女は初めて笑顔を見せる。
「やっちゃった事実は、取りかえせないけど、な」


建業へ送る、と少女が提案したので、それに甘えることにした。
大人びた女だ。
彼等が『宝物庫』と呼んでいた部屋に案内された。
そこにあるものは、思わず唸るものばかりだったが、一つ。
ただ一つ、興味を引くものがあった。

赤くも黒くも見える、石。

それを拾い上げたところで、あの少女が部屋に入ってきた。
「あ、見つけたね」
「これは、……何だ?」
「石。凄く赤くて、黒く見えるだろ?それ、紅玉って呼んでる」
「…紅玉…」
「今は白っぽいけど、磨いたら綺麗になるんじゃない?」
「…………」
「欲しいならやるよ、」
とある商人を襲った時に、頂いちゃった。
そう悪びれた様子もない少女に、溜め息をついた。
なにせ、自らも水賊だったのだ、文句は言えない。
「それにね」
そっと、少女は耳打ちしてきた。




捜せ、
この世で最も美しい、
宝飾品を作る匠を






「子義、ただいま」
「…………幼平、五日って言ってたじゃないか!!!」
「……すまない」


ただいま、なんて言って、お帰り、と返ってきたことはない。
「三日も何してたんだよ、馬鹿!」
「………これを、作っていた」
「……なん……」
それを握った手を広げると、子義も言葉を失った。
「石を見つけた」
葉を象り、中心に磨いた紅玉をはめ込んで作った金細工。
「…え、これは…玉随じゃないのか?」
「紅玉と呼ばれていた。……その種類とは違うようだ」
「……透き、通ってる……」
普通は、白っぽい筋が見えるはずだが、紅玉は違った。
「え、でも、これ…」
「………これを見つけて、子義に渡そうと思った」
呉の中で、一番の細工師を見つけて、加工させた。
その細工師さえ、この石の色と硬さに驚いていた。
「……受取ってくれ」
「…あ、あぁ……」
「子義」
受取ってくれて、ありがとう
思いっきり、抱き締めた。
「よ、幼平…どうしよう、これ」
「身近なものにつけてくれ」
「……じゃ、虎撲殴狼、かな…」
片方だけで、つりあいがあわないな、と子義は笑った。




石を、二つに割った。
一つは、虎撲殴狼に、そして、片割れは。
宵の、鞘に。






「それにね、それを渡した者には幸せがやってくる。

二つに割って、片方は自分に、もう一つは大切な人に。

渡せば、ずっと一緒に居てくれるんだって」








…終わった。泰太。周泰の物語り。
紅玉ってルビーですよ。お分かりの通り。
この時代にあるのかわかりません。多分あったかな、ぐらいで。許して下さいv





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