「陛下、正直言ってあなたの『愛してる』には飽きました」
 部屋でくつろいでいたピオニーにジェイドがいきなり言い放った。
「飽きたって……」
 ピオニーは困惑する。ジェイドは更に付け加える。
「『愛してる』以外に言いようはないんですか?」


言葉遊び


 ピオニーはよく「愛してる」と口にする。何でもないときも、事情中でも。そしてジェイドには、それが何処か胡散臭く聞こえて仕方ない。
 「愛してる」と言われるのが嫌なわけじゃない。言われたときに心地よく感じる自分は嫌いだが、言葉自体は嫌いじゃない。人間が大切なものに言える、人間らしい言葉だと思うから。
 ただ、一つ試してみたかった。「愛してる」以外の言葉で、人はその感情を伝えられるものなのか。この男は一体どういう言葉を選ぶのか。もしピオニーの「愛してる」が真実ならば、自分のために言葉を捜してくれるはず。何度も彼の要求を聞いてきたのだ。自分だけに対する言葉を求めてもいいだろう。
「と言うわけで、陛下の気持ちを別の言葉で言ってください」
「『好き』じゃ駄目か?」
「はい、ほぼ同意語ですからね」
 いきなりすぎた所為だろうか。ピオニーには返す言葉が見つからないようだった。三十後半にも差し掛かれば、言葉のボキャブラリーはかなり多いはずだ。それでも見つからないのは、そもそも見つける気がないのか、真剣に探そうとしているからなのか。
「見つかりませんか? では時間を差し上げます」
「お前、俺より偉そうじゃないか?」
「気のせいです。それよりもちゃんと見つけてください」
「見つけたらなんかくれるのか?」
 「体をくれ」と言うことが見え見えの言葉。だからジェイドはワザとそっけなく言ってみる。
「何も出ませんよ。探すか探さないかは、あなたの勝手です」
「……そうか」
 何も出ないと告げているのに、ピオニーは既に考える体制に入っている。その姿に少しだけ嬉しいと感じる自分は愚か。
 不意に浮かんだ笑みはピオニーと自分を嘲笑していた。


「ジェイドー見つかったぞー!」
 ピオニーが言葉を見つけたのは翌日のことだった。
思っていたよりも早くて、ジェイドは意外そうな顔をした。
「早いですねぇ〜一体どんな言葉でしょう?」
「お前を抱きたい」
 もったいぶることも、勘付かせることもなく、ピオニーは言葉を吐いた。本人はそれで満足げだが、ジェイドにしてみれば拍子抜けだ。
 仮にも一国の主。どんな聞いているこっちが恥ずかしくなるロマンチックな言葉攻めに会うのかと期待していたのだが、あまりにも率直な言葉だった。
「あれこれ考えるより、自分の気持ちを言った方が言いと思ってな」
「なるほど、そういうことですか」
 率直な言葉だが、自分だけに対する言葉には違いない。それに、非常にピオニーらしい。
「どうした? 怒ったか?」
 黙っていたジェイドの顔を、ピオニーが覗き込んでくる。自信たっぷりに言ったくせに、まだ不安が残っているのかもしれない。ジェイドは安心させるように、いつもの苦笑を浮かべた。
「あなたらしい言葉だと思いますよ。いいんじゃないですか?」
「女王様にお気に召していただけたようだな」
 ニヤッとピオニーが笑ったと思えば、唇を奪われる。
「……っ……」
 呼吸すること忘れるぐらい深くむさぼられた後、口を離されると同時にジェイドは言葉を繋げる。
「っは、誰が女王様ですか?」
 女王様。ジェイドが女だったら、きっとピッタリだっただろう呼び名。ただし、安っぽいプライドはないので微妙にずれてはいる。
「で、俺もお前に頼みがあるんだけどさ」
 ピオニーがジェイドを抱き寄せ、耳元でそう囁いた。
「俺もお前の『嫌いです』には飽きてんだよ」
 ジェイドが「愛してる」といわれた後に、よく口にする言葉をピオニーは出してきた。ピオニーとそして自分に嘘をつくための言葉だ。
「だから、別の言葉で言い表してくれよ」
「別の言葉でですか?」
 急に言われても、と返そうとするがそれよりも先に告げられる。
「お前は頭いいからな。時間はやらない。今すぐ言え」
 ジェイドの頭が少しだけ回転して、言葉を検索する。そして口をついて出たのは……
「ディストよりは好きですよ」
「そっか、お前らしいな」
 ジェイドの言葉に、ピオニーは笑みを浮かべる。
 きっとこの言葉も自分が言える、彼に対する言葉なんだろう。ちゃんと言葉を見つけてきた、ピオニーへの御褒美だと言えば大げさすぎるだろうか。
 クスリと笑みを浮かべて、ジェイドは口付けを求めてくるピオニーに答えた。
                          END






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