★★★★★★★★★


「ん……?」
 ガイは頬に当たる冷たさに目を覚ました。目の前には暗色の床があり、体を起こせば床と同色の壁に自分が囲まれていることが分かった。そして四面のうち一面が鉄格子になっている。つまり、ここは牢屋だ。
 最初に思い至ったのはワイヨン鏡窟。以前チーグルが捕まっているのを見たから。しかし、他にも可能性はある。コーラル城かもしれないし、フェレス島に自分の知らない場所があったのかもしれない。それともエルドランドか、まったく知られていない場所か。
「違う違う、場所よりも気にすることがあるだろ……」
 自分の今の状態と、これからすべきこと。
 今、気付いたが、ガイは何も着ていなかった。腕にももう手錠がついていない。そして、頬の傷は跡すら残っておらず、結構、痛めつけられたはずの場所にも痛みはない。一応、治癒は施されたらしかった。
「さてと、どうするかな」
 鉄格子には鍵らしきものは見あたらない。錠前でもあればこじ開けるのに……
 ガイは鉄格子を握り、外の光景を眺める。
 明かりはあるがどうも薄暗い。ここの他にも同じような牢屋がたくさんあって、向こうのほうに出入り口らしきものが見える。
「あ」
 じっとその出入り口を見ていると、人影が見えた。その人影はヴァンで、真っ直ぐとガイの方に向かってくる。
「よく眠れましたか、ガイラルディア様?」
 信じられないほど穏やかな笑顔でヴァンが尋ねてくるので、ガイも警戒心を削がれてしまう。ヴァンはひざまずき、逃げ遅れたガイの手をとった。
「ヴァン……どうしてこんなこと……」
「分かりませんか?」
 ガイは俯く。その顎を取って、ヴァンはガイの唇を奪った。ガイも不思議と抵抗できなくなり、まるで敵同士ではない頃に戻ったかのようにその口付けに答えた。繋がりが深くなればなるほど、ガイの頭は霞がかったようになる。ヴァンとの口付けはいつもそうだ。
「……ひはぁ……」
 口を離されて、ガイはズルズルとへたり込む。それを見計らって、鉄格子が開かれた。ガイが逃げ出そうとする前に、ヴァンが二の腕をつかみ牢屋の奥へと引きずる。
「わっ!」
 そのまま壁に叩きつけるように放り投げられる。見開かれたガイの目が迫り来るヴァンとその向こうで再び閉まる鉄格子を映した。
「……んっ」
 ヴァンの手がガイの腰に触れ、ガイの膝を床に立たせる。そうされると自然と両手と顔が壁につき、ヴァンに尻を向けた体制になった。
「ガイラルディア様……別にあなたを傷つけたいわけではない」
「ヴァ、ン……っ」
 決して楽な体勢ではない。しかし、ヴァンの舌が背中を舐めてくると、体が先の快感を求めて火照る。頭では分かっているのに逆らえない。拒絶できない。
「あなたが欲しい。分かりますか?」
「あぅ……ぅやぁっ!」
 息が、言葉が肌をくすぐる。後孔の方にも指が差し込まれた。傷は癒えても、まだ中に残っていたものが、指を受け入れる手助けをする。
「まるであなたが濡れているようだ」
「やめ……言うなぁっ……」
「フ……恥ずかしいですか?」
 それなりに慣らして抜ける指に代わりに、ヴァンが一気に入ってくる。前はあんなに嫌がっていたくせに、今、ガイのそこはあっさりと受け入れ、逃がさないように締め付けた。そして、まじまじとその形を読み取り、雌のように喘ぐ。
「あぁぁあああ!」
「くっ……積極的ですね……」
 快感を追い始めたガイにヴァンの言葉は届かない。ただ、媚薬のような睦言にしかガイは理解しない。より強い快感を求めて自分からヴァンの動きに合わせて腰を振り、ヴァンの体に溺れていく。
「ヴァン……ひぁっ、ヴァ、ン、ぁもっと、だ! もと…お前、欲しっいい!」
「私も……あなたが……」
 ヴァンの動きがより激しく――
「ひぃいいいあぁっ! ヴァン! ヴァンデス、ひぐっ!! デルカァァっ!」
 ガイはそれしか知らないように、ヴァンの名を連呼する。それはヴァンとて同じこと。
「ガ、イっ……ガイラルディア!」
「ヴァンっつぁああっ、ヴァ、ン…ふかっ、ヴァン深い――――っ!!」
「ガイ……ぐぐっ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 二人で同時に果て、荒い息を共に吐き出す。
「はぁ、はぁ、」
 余韻に浸るガイ。いつの間にか悦楽の笑みも浮かんでいた。
「…………っうがっ!?」
 ガイの呼吸や思考が整うよりも早く、ヴァンが座る。繋がったままなので、ガイの体も引っ張られてヴァンの足の上に座る羽目になった。その際、少し中のものが擦れて、イったばかりのモノがその存在を主張した。
「ヴァン……?」
「ご自分で……動けますか?」
 ガイはその声を聞いて、熱に浮かされたように腰をそろそろと動かし始めた。
「……ん……はぁ……ぁ」
 自分で動いて、自分で声を上げる。恥ずかしいとは思うのに自分の体ではなくなったかのように、止めることができない。自分の雄が成長していくのと一緒に、中のヴァンも太く硬くなっていくのがたまらなくて、ガイは目を閉じる。
「はふっん……ん……ぁぁあ……」
「上手です。ガイラルディア……」
「ヴァン…ぃ…いい?」
「はい、とても……気持ちいいですよ」
「よかっ…ぅ…た……俺も……すごくっん」
 自分だけではなく相手のことも気遣う。たとえ相手がどんなに憎くても、全部飲み込んで労わろうとする。ガイらしい一面だった。
「ヴァンも…はぁ…動け……よぉっ!」
 自分で動くのは自分のペースでできていい。でも、やはりこれでは物足りなかった。もっと激しい刺激をガイは求める。さっきみたいな激しくて、死にそうなほど気持ちいい刺激を。
「それは、命令ですか?」
 ちょっと笑いながら、ヴァンが問う。ガイは首を横に振る。
「命、令は……聞かない…ん…んだろ?」
「そう、でしたね。では、おねだりだと?」
「それで、いいからぁっ……早く……んっ」
「おねだりの仕方、教えましたよね」
 この野郎……あの眼鏡かよ……
 頭の中でそんなことを考えて、それでも我慢の限界がきていたガイは口にする。
「う、動いて……くださいっ……」
「分かりました」
 ヴァンが抜き差しを始めて、ガイの腰はビクンっと震える。
「あぁっヴァンんんっ!」
 ガイはやっと得られた刺激に歓喜の声を上げ、自分の腰の動きも大きく激しいものに変えていく。酔って、溺れて、熱くなっていく。
「ひぃぐっ! あぁああっがヴァン――――!!」
「ガイ、ガイ、もっと乱れなさい」
「んんんんん―――! もっ、強く……強く―――!」
 ぐぃっと仰け反ったガイの胸に太い指が触れて、背中にも熱い舌が這う。ガイは自分の雄をしごき始めた。
「ガイっ……いくぞ……」
「あぁっああああっ!」
 二人の体にぐっと力が入り、一気に抜ける。
 ヴァンの手がガイの顔を引き寄せ、お互いに喰い尽すような口付けをした。


★★★★★★★★★


「あなたにはここは似合いませんね」
 そう言ってヴァンがガイをつれてきたのは、ホテルのような一室だった。飾り気のないカーペットが敷かれ、白いシーツが掛けられた広いベッドが中心に鎮座していた。しかし、窓は一つもなく、出入り口も鉄製の扉がついたものが一つだけ。どうやら外から鍵を掛けるタイプらしく、言うなればVIP用の牢獄だ。
 ここはバスルームも完備で、先ほども体を清めながらもう一戦挑まれた。体はふらふらになったが、気持ち良かったので、まぁいいとする。
「へぇ、これ全部お前が作ったんだ?」
「はい、ちょっとしたものですが」
 ガイはヴァンが用意した食事を食べながら、ヴァンと話していた。ヴァンに連れ去られてから何も食べてなかったので、試しに要求してみたら腕によりを振るわれてしまった。ヴァンは「ちょっとしたものだ」と言うが、まるで何処かの一流シェフが作ったような朝食だ。
何かクスリのようなものを混ぜられる危険性はあったが、ここまできて後何されようが変わらないし、ヴァンは料理が上手いのでただでさえ空腹のガイには魅惑的過ぎた。
「それで、ちゃんと説明しろ。何が目的だ?」
 サラダを口にしながらガイは隣に座るヴァンを見つめる。一方のヴァンはふぅと溜息をつく。
 ヴァンは料理を作るためにちゃんとした服を着て、ガイはヴァンの服を着せられていた。ただ、ガイを苦しめたいだけならここまではしない。
「ずっと、あなたが欲しいと言っているのですが?」
「そんなに体が欲しいなら、俺のレプリカでも作ってろ」
 結局、体目当てかよ、とガイは荒々しくフォークをレタスに突き刺す。被験者からレプリカ情報を抜かないとできないことは知っているが、この際そんなことどうでもいい。
「ほら、さっさと俺からレプリカ作れよ。レプリカの方が従順だろ?」
 レプリカを作られて、アッシュのようには自分は生きていられないかもしれない。
 トマトも口の中に放り込んで、残りの野菜もかき込んだ。ガイの好みに合わせて、ツナサラダなのも何故か気に障った。
「何とか言えよ、ヴァ……」
「ガイラルディア……」
 ガイの言葉を遮って、ヴァンはガイに手を伸ばした。そして、ぎゅっとガイを抱きしめる。ガイはフォークを握ったまま呆然とする。
 頭をヴァンの胸に押し付けられ、心臓の鼓動が聞こえる。温かくて、とても心地いい。
「ルークに従え、じゃないと……アンタは殺される」
 ルークたちはどんどん強くなり、今では一人では無理かもしれないが、仲間と一団となればヴァンを圧倒する力を誇るだろう。ガイには結末が見えるような気がして、青い目を細める。
「そうだろうな……」
 ヴァンは低く言った。
「ヴァン?」
「戦いに長く身を置いた所為だろう……分かっている……この先のことなど」
「じゃあ、尚更……」
「だが」
 ガイを抱きしめる手に力が篭る。
「私は自分を貫き通す」
 決意に満ちた言葉に、ガイの目から涙が一筋零れる。
「俺は……今の世界がいい。今のオリジナルの世界が……その世界には、ヴァンという人間も必要なんだ……俺はアンタも……」
「どうせ、私が投降したとしても、私は大罪人。処刑されます」
「でも、ルークは……アンタもルークみたいに……」
「やめてください」
 ガイの手からフォークが奪われる。フォークは皿の上に置かれて、ガイはベッドに押し倒される。顔の左右に手をつかれて、ガイはヴァンを見上げる。
「私は私を曲げない。あの、レプリカのように、自分を変えることができない。私のためにたくさんの仲間が死んでいった。私の理想を信じたものたちのために……私は、自分を変えてはならない。知っているでしょう?」
「ヴァン、ヴァンデスデルカ……俺は……お前が……」
 一筋だった涙が幾筋にも増えて、ガイは子供に戻ったように泣きじゃくった。
「だから、少しでも長く、あなたの傍にいたい。あなたに触れていたい」
 ガイだって同じ。本当はヴァンにずっと傍にいて欲しかった。子供のときからずっと、ずっと傍にいてくれるものだと思っていた。だって、それは……
「俺は……お前が……好きだ……っ」
 子供の頃に思い描いていた夢……自分がガルディオス家の当主になって、その横にはいつもヴァンがいて……
「ガイラルディア……」
 その夢は将来の像だったはずなのに……どうしてこんなにも歯車は、ずれてしまったのだろう。
「俺は、お前を失いたくないんだ……ずっと傍にいて欲しいんだ……お前が死ぬんなら……俺だって……」
「やめてください」
 涙で濡れたガイの頬に、優しい口付けが降りる。
「私は、あなたに生きていて欲しい。私が……愛したあなたには、あなたが望む将来の世界を生きて欲しい」
「ヴァンデスデルカぁ……」
 締め付けるような痛みがガイの胸におとずれ、どちらからというわけでもなく口付けを求め、吐息までも奪い合った。
「……ぁふ……んんっ……ヴァン……」
「ガイ……あなたが……愛しい」
 ガイの口の端から零れた唾液を追ってヴァンの舌が滑り、首筋に跡を残して更に下る。大きさが合っていなかった服を脱がされ、性急に一糸纏わぬ姿にされた。
「ヴァンも……」
 自分だけが脱がされるのが嫌で、ガイの手が動きヴァンの服を脱がす。逞しい体を露にして、ガイは満足げに笑う。それでも相変わらず涙は流れたままだった。
「明日……あなたを解放します……だから、それまでは……」
 ヴァンもガイの笑みを見て微笑む。こうやってずっと笑えていればいいのに……それは二人とも同じで……
「ずっと……私の傍に……」


★★★★★★★★★


 ガイが解放されたのはベルケンドの近くだった。
 別れの言葉も何もなかった。黙ったままヴァンにここまで送ってもらって、ヴァンが去っていくのを見つめていた。不思議と涙は出なかった。
 ベルケンドの入り口ではルークたちが待っていた。
「おーい! ガーイ!」
 ルークが手を振ってガイに駆け寄ってくる。ガイは驚いた顔をして、
「何でここに……?」
「ジェイドが、しばらく待ったほうがいいって……それで、お前、何処行ってたんだよ?」
 「心配したんだぞ!」とルークは怒っているように腰に手を当てて、見上げてくる。他の仲間たちもガイに近づいてくる。
「えっと、実は……音機関好きな奴と偶然出会っちまって……」
 「そいつのコレクションを見に行ってた」とガイは苦笑して答えた。それを根っから信じたルークはぷぅと頬を膨らませる。
「だったら、そうだって置手紙に書いとけよ!」
「ははは、ごめんごめん。時間がなくてさ」
 女性陣もガイの嘘を信じたのか、それぞれ、それぞれの表情をして、
「それにしてもガイが無事で良かったわ」
「本当ですわ、ガイ! あなたが心配をかけてどうするのです?」
「てっきり、総長側についちゃったのかって思っちゃうじゃん!」
と、ガイに近寄ってきた。勿論、心配をかけたガイに対する嫌がらせのためで、ガイは大げさに飛び退く。
「わわわわわわわわわ!」
「まぁ、私はそんなところだろうと思ってましたよ」
 なんとあのジェイドまで騙せてしまったらしく、彼はお決まりの呆れポーズをとって見せた。そして、またルークが言う。
「じゃ、ガイも帰ってきたことだし! 行くぜ!」
『おー!』
 みんなで片手を挙げて、再び旅が始まる。それはヴァンを止める、いや、ヴァンを殺すための旅。
 こっちが俺のいるべき場所……
 笑顔を浮かべながら、ガイは思う。
彼と自分は違う道を歩んでしまっているのだ。もう交わることも、寄り添うこともない、正反対の道なのだと……

              FIN



AFTER STORY



 その夜は野宿になった。
「で、旦那、用って何だよ?」
 そしてガイはジェイドに呼ばれて、仲間たちから少し離れた森の中につれてこられた。
 ジェイドは眼鏡の位置を直しながら、静かな声で言った。
「ヴァンに会いましたね?」
「やっぱりばれてたか……」
 ガイは苦笑して、そして少し俯く。ジェイドは、はぁと大げさに溜息をついて、自分の首を指差してガイを見る。その動作が何を表しているのかに気付いて、ガイは慌てて自分の首筋を押さえた。すっかり忘れていたが、跡を残されたままだった。
「それで、どうするんです?」
「大丈夫……ちゃんと……今度は本当にお互い決別してきた。俺も、たぶんヴァンも、もう迷わないと思う」
 いっぱい泣いたはずなのに、涙が零れそうになる。それを見て、ジェイドの顔にはいつもの嫌味な笑みが浮かんでいる。
「泣きます?」
「やめてくれよ」
「泣きたいときは、泣いておいた方がいいです。戦闘に差支えが出ますから」
「よしてくれ、もう、十分、泣い、て……」
 最後の方はもう涙声だった。ガイは嗚咽を堪えることができないで、ジェイドにしがみつき泣き始めた。その頭をジェイドの手が撫でる。
「ヴァン……ヴァン……俺は……っ俺はぁっ」
「胸を貸すとまでは言ってないんですがね……」
 ジェイドが呆れたように呟くが、ガイの耳には聞こえていない。それをいいことにジェイドはぶつぶつと続ける。
「あなたが羨ましいです。あなたのように……私も愛する人のために泣ければいいのに……」
 ジェイドの脳裏に金髪の皇帝の姿が浮かんでいた。

FIN






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