ルークはアッシュを見た。アッシュもルークを見た。

「あ、あのさ、アッシュ……」

「どうした? レプリカ?」

 首を傾げるアッシュの体は、ルークより高いところにある。更に言えば、二人の体は触れ合っている。要するに、ルークの上に、アッシュが圧し掛かっているというわけだ。

「どいてくれないかな? 重い……」

「同じ体重だろうが」



IN THE WHERE?



二人はとある森の中にいた。別にどうと言うことのない、いたって普通の森。しかし、彼らがいたのは森の中でも地下部。大きな木が抜けた跡に太いツタが生い茂り、自然の落とし穴になっているところだった。

 場所的にはチーグルの森の近く。と言っても、確実に未開の地だ。

 エンゲーブに着き、仲間と別行動をとっていたルークは、偶然この森を見つけ、散策していたら落とし穴に落ちたのだ。ツタのおかげで、大したダメージはなかったのが救いだが、意外に深くて、抜け出すことができない。

 最近は街や村に着くと、特に用事がない限りは宿を取って、翌朝その宿で待ち合わせするようになった。あれこれ見て回りたいルーク、可愛いものが気になるティア、音機関が気になるガイ、何かと用事の多いジェイド、小金を稼ぎたいアニス、とにかく人々と交流したいナタリア。それぞれのニーズがかみ合って、このような形式になった。

 しかし、今はそれがあだとなって誰も助けに来てくれることがない。明日の朝まで、いや、こんな辺鄙な場所だから、このまま死んでしまうかも……

 嫌な想像がルークの頭を駆け巡ったとき、特有の頭痛が襲ってきた。それはアッシュで、ルークはこれ幸いとアッシュに今の状況を説明して、助けを呼んでもらおうとした。しかし、説明を受けたアッシュは

『分かった今すぐそっちへ行く!』

「え? だから、助けを……」

『レプリカは黙ってろ!』

 そのまま通信を切られ、今に至る。つまり、アッシュまで落とし穴に落ちて、ツタの間で寝そべっていたルークの上に落ちてきたというわけ。

「二次災害……まさかな」

「まさかじゃねぇだろ、まさかじゃ」

 ふっ、と笑うアッシュの額にルークのチョップが入る。ルークの思わぬ行動に、アッシュは「むぅ」と唸る。

「しかし、どうするかだな。まさかツタを上るわけには行かないだろうし」

 アッシュを体からどかせるのを諦めて、ルークは上を見上げた。まだ昼だと思うのに、木々の所為で小さな零れ日しか漏れてこない。

(一つ分の陽だまりに僕らはいる〜)

 妙な歌詞がルークの頭をかすめ、振り払うように頭を振った。

(こんなこと考えてる場合じゃないだろ!)

 こんなとき、いつものアッシュなら具体策を嫌々ながら言うのに、今日のアッシュは何も言わない。ただ、じっと顔を眺めてくる。

「俺の顔に何かついてるか?」

「鼻」

「……」

 コイツって、こんなにボケだったけ……

 アニスにはボケ担当と言われているみたいだが、これほどとはルークも意外だった。自分の被験者だからといえば、ジェイドあたりは納得するだろう。

「レプリカ」

「何?って、のはっ!?」

 ルークが変な声を上げた。何故かと言えばアッシュの顔が急に近づいてきて、ルークの鼻をカプっと甘噛みしたからだ。

「な、なにをぉぉっ!!」

「今更、そこまで驚く間柄でもないだろ?」

 自分の鼻を押さえて驚くルークの、今度は額に唇を寄せてくる。

「ア、アッシュ!」

 ピクッとすくめる身体を抱き寄せ、額からこめかみ、耳元まで口付けを施された。

「明日になれば探しに来るんだろ?」

「たぶん、そうだけど……」

「じゃあ、明日まで暇つぶしするぞ。ルーク」

 名前で呼ばれた。こんなとき、どうなるのかはさすがに覚えた。

 また、抱かれるんだ……

 アッシュに抱かれるのは嫌じゃない。抱かれてるときは、一人の人として認められているような気がするからだ。貴族のおぼっちゃまでもなく、愚かな劣化レプリカでもない、人間としてのルークを見てくれているように。でも、その分、抱かれた後の言いようのない虚無感は強い。

「アッシュ……好き……」

 体に降りかかる、それこそ鮮血のような紅くて長い髪。その髪の筋をなぞって、首の後ろに手を回した。そうすれば、答えるように抱き寄せる手に力が篭る。

「あぁ、俺もだ……」



 翌朝、ルークは珍しくアッシュのことをにらみ、アッシュは珍しくルークに気まずそうな表情を浮かべていた。

 ルークたちがこうなっている理由は二つ。

 まず、アッシュが調子に乗ってやり過ぎて、ルークの腰が立たなくなってしまったこと。これはレモングミで何とかなった。

 もう一つは、二人で協力すればあっという間にあの落とし穴から抜けられたのに、アッシュが知ってて知らないふりをしていたこと。

「あ、あのルーク……」

「ん!?」

 顔は一緒なので、怒ったルークは不機嫌なアッシュ並みの迫力があった。アッシュもアッシュで自分が悪いと自覚している所為か、何処か覇気がそれていた。これではどちらが、ルークでアッシュなのか分からないかもしれない。

「……」

「……」

 二人の無言の駆け引きは、仲間たちがルークを探しに来るまで続いたという。

                          END






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