俺のブウサギたちを見つけてくれたルーク御一行は、何故かジェイドだけ置いて、先に宿の方へ向かった。
「どうしたんだ?」
声をかけると、冷たい炎とでも言うべき赤い瞳がこちらを向いた。白い顔には始終周りを馬鹿にしているような笑みが張り付いていて、ちょっとだけ安心した。
<凍える焔>
「ちょっと調べ物と、陛下に確認したいことがありまして」
「俺に確認?」
ジェイドの確認は簡単なものだった。「この先、何が起こるか分からないので覚悟しておけ」ということと、「そろそろ、子供をつくることを考えろ」ということだった。俺は前者にはYES、後者にはNOを出した。
「俺はお前さえ傍にいてくれればそれでいい」
プロポーズにも聞こえかねない俺の言葉に、ジェイドは心底呆れた溜息を出す。お決まりの頭を抱えるポーズまでついてるし……
「陛下……私はネフリーではなく、彼女の兄です。兄と妹の区別がつかないような馬鹿……いえ、知能発達か遅れた上司は要りません」
「いつもながらキツイな〜」
勘違いを正してやったら、どれだけスカッとするだろう。コイツはどんな顔をする? 冷たくあしらうか? それとも柄にもなく照れるか?
「では私はもう行きますね」
「つめたーい! 幼なじみにはもっと優しくしてくれよぉ!」
文句を言えば、鼻で笑いやがった。
「ガキですか?」
「いえ、皇帝様です」
ジェイドが構ってくれるなら、ガキでもいい。
「一回死んでみます?」
「軍法会議ものだぞ?」
ジェイドがそう望むなら、死んでもいい。
「では陛下お元気で」
「おう! また来いよ」
ジェイドが許すなら、行かせたくない。
本心を語らぬままでいたら、ジェイドはクルリと背を向けた。そのまま、ドアの方へ歩いていく。
明日は早速スパの会員証を使うため、ケテルブルクに行くらしい。俺も行きたいって言えば、皆が怒るな。
雪に重なる白い肌を、久しぶりにみて見たい。だが、俺はここから動けない籠の鳥。
「ジェイド」
呼びかけても足を止めるだけで、振り向いてくれるはずもない。
「どうしました?」
振り向いてくれ。その凍った炎を見せてくれ。
「絶対また来いよ。ここはつまらないんだ」
お前がいないから。
「ご命令とあらば、また伺わせていただきます」
ジェイドはそう言い残して、出て行ってしまう。俺は足元のブウサギに目をやった。こいつらは俺の命で、思い出で、実は過去に縛られてることを示してくれる弱みだ。
意地が悪いな。素でこう振舞うのか、知ってて突き放そうとしているのか。おそらく後者だ。
ブウサギのジェイドはつぶらな瞳で、俺を見つめてくれるのに。
END
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